㈱菓業食品新聞社

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鍵善良房 ZENBIで菓子木型展

   

 鍵善良房が運営する美術館ZENBI(今西善也館長、京都市東山区)では、11月20日(土)~2022年4月3日(日)、「美しいお菓子の木型~手のひらの宇宙」展を開催している。
 同店が保有する多数の木型と、岡山の菓子木型彫刻 京屋所蔵の貴重な資料を紹介している。また、その型で打った菓子も随所に展示され、楽しい展覧会になっている。

 12月18日(土)には、京屋の木型職人、田中一史氏と今西館長が館内を回りながら展示品を紹介するギャラリートークが行われた。3回に分け、各回15人ほどが参加した。

 1階の展示室では、鍵善が所有する特徴的な4つの木型が紹介された。
 ひとつは「蓬莱山」。同店に残された型でも最大サイズのもの。松の彫りが素晴らしい。梅の花が咲き、亀、鶴がおり、めでたい席を彩るために作られたか。実際にこの型で作った見事な落雁も展示した。

木型「蓬莱山」


落雁「蓬莱山」

 同店銘菓の「菊寿糖」の元治元年(1864年)の型は、たまたま年号が入っており製造年がわかった。今より大きさが少し異なるがほぼ同じ。

 2階の最初の展示室には、同店に残る古い型を並べた。
 今西館長は「この型でどんなお菓子が作られたかわからないものもある。大きなものも多いが、昔はお祝いの席などでもらった落雁を持ち帰って、家族で割って食べたのだろう。落雁はお供え用でカチカチだと思っている方もいると思うが、本当はお米の風味のある美味しいお菓子だ」と語る。

古い「蝙蝠の型」 

 縁起が良いとされる蝙蝠の型もある。
「顔がかわいらしく、空想で造形しているように思える。昔の型は生き生きとして見ているだけで楽しい」と話す。
 田中氏は「木型に使われる山桜の材は耐久性があり、使い方にもよるが末代まで使える道具だ」と語る。

「よりょう」

 最後の展示室には、同店がアーティストとコラボした菓子のための新しい木型が展示された。
 黒田辰秋展に合わせ、代表作「四稜棗」を模して、木工作家の佃眞吾氏が型を作った「よりょう」。
「一本に3つ彫ってもらったが、それぞれ形も違ってしまい、専門の木工家でも菓子型は難しいと話していた」という。

 京屋所蔵の様々な菓子型も展示された。
 「木型は注文に応じて作り、当方には残らないものだが、お店を畳まれたところのものが蚤の市などに出て、当店に戻ってくることもある。鯛の型は、実際の鯛の代わりのお供え用で、東北に行くと大きくなる」とのこと。

大きな鯛の木型について説明する田中氏

 展示された巨大な鯛の型は、堀九来堂所蔵のもので、一説では、鍵善良房を舞台にした松竹映画「女の坂」で使われたものとのこと。
 京屋先代の貴重な図面帳もあった。資生堂など企業のロゴもあり、記念品として作られたものだとのこと。また、菓子木型で打った革小物や、和紙作品なども展示された。

 トークの前後数日間、田中氏は在館し、木型作りの実演をした。丁度、鍵善良房より注文を受けた、菊寿糖の合わせ型のうち、すり減って新調する側面の型の製作をしていた。
 「菊寿糖もよくみると花びらの数など、人の仕事なので一つ一つ違う」と話す。全く同じものが並んでいるのではなく、微妙に違うことが気持ちよさを与えているとのこと。

「菊寿糖」の木型を制作する田中氏

 菓子木型職人は全国で10人もいなくなっている現状がある。ただ、京屋さんのところに美術大学を卒業した20代の女性が勉強にきているとのことで、若い世代が新たな目で木型製作に魅力を感じているのかもしれない。

 今西館長に今回の展覧会について伺った。
 「菓子屋にとっては木型は当たり前のものだが、知らない人に見てもらうと興味をもっていただける。また、菓子屋にとっても木型がどのように作られているかは知らない。単に図柄だけではなく、使いやすさを考えて作られる道具でもある。コロナ禍で出来なかったが、他のお店にも声を掛けて古い木型を持ち寄る展示も面白いだろう」