㈱菓業食品新聞社

お菓子の業界紙

ロンドンの日本大使館で和菓子講演会

   

森崎美穂子氏講演「和菓子文化 京菓子と郷土菓子」

 在英国日本国大使館は11月30日(火)、ロンドンの日本大使館ボールルームで和菓子文化講演会を開催した。

 森崎美穂子氏(大阪市立大学及びリヨン第二大学客員研究員)が「和菓子文化 京菓子と郷土菓子」をテーマに講演し、7軒の老舗が日本から送った菓子の試食も行われた。次世代の日本・日本食ファンを増やし、観光も振興しようとする内容で、会場には英国内の飲食・観光業界関係者、また食文化を研究する大学関係者ら約60人が招かれ、講演はYouTubeでも同時配信された。

左:フッド氏、右:森崎氏

 はじめに日本研究で著名な英国カーディフ大学教授クリストファー・フッド氏が森崎氏を紹介。森崎氏は、食文化と地域振興の結びつきをテーマに、日本とフランスの間で比較研究を行っている。

 まず森崎氏は「現在、SDGs(持続可能な開発目標)に関し、生物多様性や景観・文化の維持に農産地が果たす働きが認識され、それを支える食文化の役割が世界的に注目されている。和菓子も伝統的農産物やその産地の維持に深くかかわっている」と前置きした。

 次いで和菓子について豊富な写真資料を使って概説。
 和菓子では小豆を砂糖で煮た「あん」が特徴的であること、在来種である丹波産の大納言小豆や備中産の白小豆などが京菓子・茶席菓子で重用されてきたことを説明。輸入品で希少性の高かった白砂糖が当時の首都・京都に速やかに伝わり、宮中の菓子、寺社の菓子、茶席の菓子、工芸菓子などが発展した歴史にも触れた。

地元産活用で持続可能な観光へ

 続いて食文化と地域農業の結びつきを示す、フランスの二つの事例を紹介。
 「スキーリゾートのあるチーズ産地では移住者の増加で酪農家が撤退を余儀なくされ、地域の食文化が危機に瀕し、それはリゾートにとっても痛手となった。一方、栗の名産地アルデッシュ県では栗林の景観が重要であるととらえた。マロンクリームの製造会社も、輸入の栗に頼らず、地元産で作る動きがある」。

 和菓子をめぐっては、
「地域の特産物を生かした和菓子が、今、観光の目的そのものになり始めている」と指摘。岐阜県中津川市では、地元のいろいろな店の栗きんとんをひとつの箱につめ合わせた「栗きんとんめぐり」がヒット商品となった。店舗めぐりのマップも作成され、11月の菓子祭りは活況を呈している。
 丹波地域での「丹波栗食べ歩きフェア」など、和菓子店と行政が連携した取り組みがある一方、和菓子店自らが中心となって動いている例として、地元の伝統菓子「のし梅」を作る山形市の老舗・乃し梅本舗佐藤屋の活動を紹介。梅を使った新しい和菓子等が人気を呼び、今では酒蔵など地元の経営者とイベントを行い、地域活性化の源泉になっている。

 最後に「和菓子も原材料に地元産を使うことで、消費者や観光客から評価され、また地域農業の貢献にもつながる。京都などではオーバーツーリズムといわれ観光に対する否定的な意識が高まった時期もあったが、地域資源を楽しんでもらいつつ、景観や農業を維持する持続可能な観光が、今、重要だと思う」と講演を締めくくった。

日本から老舗7店が試食を提供

 続いてフッド氏からの質問に森崎氏が答えるセッションがあり、その後試食タイムに移った。
 羊羹が中心だったが、「乃し梅」なども提供された。

塩芳軒「ふきよせ」

 塩芳軒は和三盆・有平糖・生砂糖・餡平・落雁など、干菓子で晩秋の風情を示す「ふきよせ」を送った。髙家啓太店主は「イギリスまで繊細な菓子が無事届き、楽しんでいただけたと聞き、様々な可能性を感じている」と話す。

亀屋良長「山の幸」

 亀屋良長はマカデミアナッツ入りの羊羹の上に、栗、柿、無花果、小豆、胡桃等をのせた、秋の味覚いっぱいの棹菓子「山の幸」を送った。色彩豊かで、とても喜ばれたとのこと。

和菓子が受け入れられる土壌はある

 森崎氏は業界に向けて次のようにコメントした。
 「協賛店の皆様はじめ、日頃調査にご協力いただいている皆様に心よりお礼申し上げる。以前は羊羹を苦手とするイギリスの人が多いと聞いたが、今回そのような感じはなく、参加者はたいへん興味をもって味わっていた。和菓子への関心の高さを実感した。ヨーロッパは地域に根ざした食文化を重視する潮流にあり、和菓子文化はその価値を伝えやすいと思う。植物性の材料を使っていることも関心のポイント。レストランのシェフから『ベジタリアンメニューのデザートとして興味をもった』との声も聞かれた。欧州では有機商品が増え、ベジタリアン、ビーガンの方も一定数おられる。レストランでも対応メニューが必要なので、植物素材で作られる和菓子はデザートとして需要があるだろう。また、イギリスで日本食は高級なイメージがあり、和菓子もブランド力を備えた高級路線がひとつの活路ではないか。これから和菓子が受け入れられる土壌はあると思う。和菓子文化の情報を発信することで日本文化の深みに触れてもらい、商品の購入や旅行にもつなげられると感じる」。

 試食提供店と菓子
 鶴屋𠮷信=個包装羊羹(丹波大納言小豆・備中白小豆)、塩芳軒=「ふきよせ」(干菓子)、亀屋良長=「山の幸」(羊羹)、村岡総本舗=「黒豆羊羹」、美濃屋=「栗むし羊羹」、虎屋=「夜の梅」(小倉羊羹)、乃し梅本舗佐藤屋=「乃し梅」