㈱菓業食品新聞社

お菓子の業界紙

「京菓子店の状況、行政に伝える」

      2020/08/28

 弊紙京都支社では、7月14日(火)午後8時~9時30分、「第1回京都菓子屋ZOOMミーティング」を開催した。
 WEB会議ツールを使って、京都菓子業者の意見交換の場をもつ初めての試みで、継続的に開催していく予定。参加者は約35人だった。

吉村氏(亀屋良長社長)、大石氏(二條若狭屋専務)をゲストに

 第1回目のテーマは「京菓子店の状況、行政に伝える」とし、ゲストに吉村良和(亀屋良長社長)、大石祐二(二條若狭屋専務)の両氏をお呼びした。

 まず、弊紙京都支社長の小川が会の趣旨と、今回のゲストへの思いについて
「コロナ禍という初めての事態となり、どうしたらよいかとフリーズするのが普通だと思う。その中、京都菓子業界でも果敢に試行錯誤を重ねている人に出会い、刺激を受けた。この会では、先渡しになる方にお話いただきながら、先の見えないコロナ禍に対して様々なテーマで考えていきたい。
 京都菓子業界の苦境を、私自身としては、行政や一般世間にうまく届けることができていないと思っていた。今回のゲストのお2人は、5月18日に京都市役所に行き、菓子店ならではの方法で、市長に直接声を届けている。今日は、このことを皆さんと共有し、菓子店の状況を世にどう伝えたらよいか考えていきたい」
 と話した。

 次いで、京都府菓子工業組合青年部部長でもある武中俊樹氏(武中製菓㈱)が注意事項などを説明し、対談となった。

2月末からお茶会がなくなる

―― この間の状況について

大石氏 2月の末くらいからお茶会がなくなった。「京菓子コレクション」などのイベントも中止。駅の売店等お土産も出ない。さらに4月、緊急事態宣言後は売上が激しく落ち込んだ。現在も以前に戻るには程遠い状況にある。

大石祐二氏

吉村氏 4月が底だった。5月からは(コロナ対策として)様々なことを試み、6月になり売上は徐々に戻ってきた。まだ京都駅方面は大変だし、毎年忙しい祇園祭も静かに過ごしている

吉村良和氏

お菓子も持って市役所に

―― 市役所訪問のきっかけとなったのは二條若狭屋の「アマビエ」の上生菓子だと聞いている

大石氏 非常事態宣言の中、週に一回くらいしか仕事のない状況が続き、「なんとかしなあかん」と思っている時に、全国の菓子屋が「アマビエ」のお菓子にチャレンジしていることを知り、取り組んでみた。当店では、ういろう生地で作った。今は生姜の味などアレンジしたものも出している。

二條若狭屋「アマビエ」

 インスタにアップしたら、知り合いの市会議員の方から、「今、暗いニュースばかりだから、市長さんのところへこのお菓子を持って行きませんか」とお声がけいただいた。行けば、「われわれが今どんな状態であるか」を直接お伝えできる。例えば、牛肉の業界はアピールし「お肉券」の話があったし、牛乳は学校給食がなくなり余ってしまっているなど、世間にアピール出来ているのに、非常に苦境にある菓子業界の声が届いていないと思っていた。また、市長や市役所の方々を労う事もできる。せっかくの機会、当店だけでなく業界の方々と一緒にと思い、色々と声をかけさせていただいた。

吉村氏 二條若狭屋(藤田茂明店主)さんからお話を聞き、ぜひ、行こうと思った。市役所の方々もお疲れだと思うし業界の宣伝にもなる。

―― 5月18日の当日は二條若狭屋はアマビエのお菓子、亀屋良長はコロナ対策で開発したお菓子をもって訪ね、門川大作京都市長、山本恵一市議会議長らと会談し、京菓子業界の状況や現在の取り組みについて説明した。また、京都新聞やKBS京都などの取材もあった。その他の市役所の部署もまわった。
門川市長からは「前向きな話を聴くことが出来た」と感謝された。

大石氏「助けてもらうだけではなく、秋になり観光客が戻ってきたら、協力できることはしていきたい」とお伝えした。

吉村氏 市役所の方は日常と違う仕事で苦労されていることも知った。コロナに対して文句ばかり言っていてもだめだ。一方、言うべきことは伝えていかねばと思った。

大石氏 京都新聞に載せていただき反響もあり、「新聞に載っていたね」と地元の方に来ていただけるようになった。

情報の発信の重要性

―― 事前のゲストへの質問では、コロナ禍での両店の取り組みにも関心が高かった。

大石氏 今まで無かったネット通販のサイトを立ち上げた。新しいお客様がついている。立ち上げ自体は簡単なので、ぜひ始めてほしい。また、インスタ、ツイッター、ラインなどSNSで情報発信するようにした。発信し、情報を出さないといけない。

二條若狭屋の販売サイト

吉村氏 4月、お客さんが減ったとき、「柏餅を配達します」とチラシを作って、ポスティングしてまわった。地元の方にお店が開いていると知っていただいたのが大きかった。

 続いて吉村氏は、亀屋良長の「コロナ禍で生まれたお菓子」を画像を使って紹介した。

「そんなバナナ」免疫力アップに効果のあるバナナを使った羊羹。社員がこの菓銘を提案したとき、抵抗もあったが、確かにこんな時代になるとは思っていなかったし、くすっと笑えて心の免疫力アップになればよいと思った。

「おうちで京都気分。」東京出身の京都好きの社員が提案した。京都の老舗の食べ物を詰め合わせ、旅行に来れない方に京都気分を味わっていただく。老舗一軒一軒回ってお願いした。

「京のおやつセット」当店はアイテムが結構多いので、社員から『親がネットでどれを買ったらいいかわからないと言う』と指摘された。そこで3000円送料無料でセットを作った。買いやすいようで評判が良い。今は5000円以上送料無料にしている。

亀屋良長「京のおやつセット」

「手作りあんこセット」材料は全部計量してある。家庭で子供にも美味しいあんこを味わってもらいたい。

吉村氏 今まではお客さんが来るのを待っていた。発信していかなくていけないと、4月の後半からツイッターを始めた。
 6月後半にお菓子の製造風景の動画をツイートしたら大反響で1500万人が見てくださった。テレビの取材もきた。作り手としては当たり前のことなのだが、お客様には製造風景は見えない。皆さんのお店でもよい商品を作っているので、動画は知ってもらうきっかけになると思う

亀屋良長 吉村良和氏 Twitter

参加者で意見交換

 休憩を挟んで、後半は参加者で意見交換を行った。

 他の京菓子店からは、
「普段は観光客のお客様が多いが、それがいない状態。お2人の話を聞いて、今までの待ってるだけの商売ではなく、発信していかないといけないと再認識した。地元の方に向け、当店でもポップを出したりもしている」
「お茶会がなくなった。裏千家さんの動き次第で商売にこんなに影響があるのかと思い知った」。

 その他、オンラインの活用や感染症対策、観光土産、インバウンド、地元の人に入りやすい店作りなどが話に上がった。

 初めての試みでもあり、運営上の問題点も多々あったが、「有意義な話を聞くことが出来た。集まって情報交換する場が失われているので必要とされる企画だ」との声もいただいた。