「菓子屋にとっての支援」
ゲストは、市川智裕氏㈱市川商店)、関雄介氏(㈱関製菓本舗)、近藤健史氏(㈲斗六屋)
弊紙京都支社では、8月25日(火)午後8時~9時30分、「第3回京都菓子屋ZOOMミーティング」を開催した。
今回は「菓子屋にとっての支援」をテーマに行った。
まず、弊紙京都支社長の小川が、
「ゲストの3氏は、医療現場や福祉施設、又は菓子屋同士の『支援』に取り組んできた。危機のときは、いつも以上にお互いが支援し合う=助け合うということが大事だと思う。京都菓子業界内での助け合いを含め、広く支援について考えたい」と話した。
京都府菓子工業組合青年部部長でもある武中俊樹氏がゲストの紹介をし対談となった。
京都のお菓子を医療従事者に届ける「Sweet Support」について
市川氏 4月、小豆や黒豆など菓子店に卸す当社もコロナ禍で苦しい状況になった。そんな中ではあるが、報道で医療従事者の大変なご苦労を知り、支援したいと考えた。
プロジェクトの目的は「お菓子を寄付することで、ホッと一息ついてほしい」ということ、そして菓子業界に支援の輪が広がったら良いと思った。
京都府菓子工業組合青年部を通してお願いしたところ、4月に第1回目として14社からの寄付を頂き、3つの病院、京大病院、府立医大病院、足立病院に寄付できた。2回目は小分けにして袋に詰めた。
京都の菓子店も厳しい中、寄付をいただき続けるのは難しいと考え、一般の方から寄付を募るクラウドファンディングを行い、予定金額の倍の135万円の支援金を集めることができた。このお金で事業の安定化を図り、菓子を購入し活動している。現在、9月の初頭にお菓子を送るように調整しているところ。
多くの感謝の声が届いていおり、8月に新しく送った堀川病院からも「休憩時間にホッとできます」とお礼を頂いた。お菓子の果たす役割を感じている。
現在の医療現場の状況は?
市川氏 6月は一旦落ち着いたが、7月から患者が増え、病院によっては4月よりも大変で、切迫した状況は続いている。
日常が戻るのはまだ先だろう。医療従事者の負担がなくなるまで続けていきたい。
近藤、関、武中3氏はプロジェクトに菓子を提供
近藤氏 私の祖母の担当医がこのプロジェクトのことを知っており、感謝の言葉をいただいた。
関氏 医療従事者に対し、何かしたいと思っていたところ、市川氏が率先してやってくれた。青年部を利用したことも良かったと思う。引き続き協力したい。
関氏は福祉施設に
関氏 4月に入り、土産物が売れず商品がダブついた。少しでも喜んでもらえるところに送り、食べてほしいと思った。当社の前会長が福祉協会の理事長をやり、授産所を作るなどの活動をしてきた。会社としても実習で障害のある生徒の受け入れなどもしてきている。
福祉施設では、自粛の中で外に買いに行けない状況があった。付き合いのない施設にも手紙を添えてお菓子を送った。全てのところから、感謝のお手紙を頂戴した。商売も苦しいが、やってみて良かったと思う。
施設にはお菓子の時間があるが、ルーティーンが固まり、いつも同じようなお菓子になっている。上田さんらが取り組んでいる嚥下食や、青年部では皆さま様々なお菓子を作られているので、協力いただき、いろいろな形で支援ができたらよいと考えている。
近藤氏の取り組んだ「京都菓子仲間の詰合せ」
近藤氏 お菓子屋として取り組み、ヒントになればと思い報告する。
当社の甘納豆、武中製菓さんのあられ、む津美製菓さんのマカロンを宅急便のコンパクトサイズに詰め、弊社の通販で1カ月販売した。
広島の蜜屋さんの「旅する和菓子」の取り組みを知り、地元の京都でできないかと思い始めたこと。それぞれ3社のSNSで宣伝した。今まで当社のことを知らなかった、他社のお得意様に知っていただいたのが一番のメリットだ。
私も家族に高齢者がおり、コロナのリスクが高いので、ストイックに自粛していたが、食べることが楽しみだった。京都に来たくても来れない方に味わっていただき、とても喜ばれた。
菓子にはできることがあると思った。
祇園の芸舞妓さんへの支援について
近藤氏 芸舞妓さんは、お茶屋の仕事もない、「踊り」もないので大変だと聞いている。
当店は祇園の南座前で創業し、パッケージなどに芸舞妓さんの意匠を使用している。提案として、舞妓さんの意匠を使っているお店が、売上の一部を寄付できないだろうか。一社では微々たる額だが、集まればそれなりの支援になるのではないか。
お菓子は運べるので、なんとかなる可能性もあるが、その場で体験する形のお店や仕事の場合、コロナ禍で受ける影響は本当に大きいと思う。
組合や業界で助け合い
休憩後の第2部は、参加者を交え、組合や業界で助け合うことができないか、積極的な意見交換の場となった。
近藤氏からは、業界で行う他店との詰め合わせ販売について、具体的な提案があった。
「蜜屋さんの『旅する和菓子』の取り組みですごいことは、お互いに売り合うということ。何軒か集まって、それぞれが他店の商品を仕入れて、セットにして売り合う。店頭でも売り、通販でも売る。一つのセットに多くの店が参加すると大変なので、京都でも地域ごとに分け、近いところで集まり、商品の重なりなども考慮して組み合わせを考えると良いのではないか。近所に顧客層があるお店、メディアに強いお店などそれぞれの強みを生かしてもらう。やりながら良くしていけるのではないか」
また、参加者から、情報発信についても提案があった。
「集まって雑誌的なものやウェブメディアを構築する。この状況の中、情報発信で苦労しているお店も多い。またSNSも大事だが、積極的に情報を求めている方にしか届かない。出版社などにも協力いただいて、コラボして情報発信できないか」
また、北海道函館市で業界団体が立ち上げた「函館スイーツ推進協議会」がクラウドファンディングを利用し通販サイトを立ち上げた例や組合でインスタを開設している例なども紹介された。
生菓子店で日持ちする商品がない場合、医療機関への支援や、詰め合わせセットにどのように関われるかについても議論した。
ウィズコロナの世界で求められていること
関氏 コロナ禍のすぐに収束は難しい中、ただ待ってるわけにはいかない。
お菓子を食べて喜んでいただくという我々の使命をどう実現していくか。様々な新しいことにチャレンジするチャンスだと思う。
近藤氏 買い物の仕方、人との会い方など、生活が大きく変化した。そのまま前に戻ることはないだろう。適応できれば残る。適応できなければ衰退する厳しい時代。
ただ菓子は喜ばれるものだという強みがあり、まだまだ挑戦する価値はある。ネットが重要だけれども、一方でインターネットを使えない方もおり、ごくローカルなところにもチャンスはある。
今回、観光の脆さも知った。観光と地元客とのバランスが必要になる。
先の大戦の時は今よりもっと大きな危機だったはず。先代はそれを乗り越えているので、何らかの方法はあるはずだ。
市川氏 2つのことを思う。一つは過去と決別すること。新しい状況をこういうものなのだと理解する意識の改革が必要。
もう一つは本業と貢献を両立すること。地域社会に対してどれだけ貢献しているか。それがないと生き残れないのではないか。新しいチャレンジの時だと思う。