「GoToキャンペーンと感染症対策」
ゲストは、㈱中村軒の中村社長と㈱岩井製菓の岩井社長
弊紙京都支社では、7月28日(火)午後8時~9時30分、「第2回京都菓子屋ZOOMミーティング」を開催した。
今回は「GoToキャンペーンと感染症対策」のテーマで、ゲストに㈱中村軒の中村亮太社長と㈱岩井製菓の岩井正和社長を招いた。参加者は22人。
まず、弊紙京都支社長の小川恭平が今回の趣旨について
「新型コロナ感染者が急増する中でのGoToキャンペーン。4月とはちがい自粛要請がない中、お店(とくに甘味処)の営業に大きな不安を抱えているのではないかと思い、このテーマを急遽設定した。中村さんは4月に業界でいち早く休業された。その判断やその後の状況に興味があった。岩井さんはコロナ禍に対し新しいアイデアで果敢に取り組んでこられた。お2人とも業界全体のことも考えておられるので、是非お話を伺いたいと思った」と話した。
京都府菓子工業組合青年部部長でもある武中俊樹氏がゲストの紹介をし、対談となった。
㈱岩井製菓は京飴の製造とともに、宇治・平等院表参道、清水茶わん坂など観光地を中心に7店舗、三室戸寺や東福寺に期間限定の甘味処を営業し、従業員は約100人。
㈱中村軒は桂離宮前に立地し、麦代餅などの銘菓を持つ生菓子店で、ぜんざいなどのほか、夏はかき氷が人気の店内飲食を展開しており、従業員は34人。
7月末までの状況
岩井氏 1月下旬に中国の団体旅行が中止になってから、客足はじわりと減りだし、3月ホワイトデー商戦は悪くなかったが、その後、春休み、桜のシーズンにコロナ禍が直撃。売上は3月で30%、4月は75%落ちた。5、6月はコロナ対策の戦術がうまくいき、下げ幅は落ち着いたが、元には戻っていない。7月で30~40%減ではないか。
中村氏 2月は影響はなかった。3月卒業式、入学式の注文キャンセルがあったが、来客数は例年どおりだった。4月のはじめ、京都市西部で感染者が増え、近くの病院で院内感染が起こった。従業員の気持ちにも影響が出てきて、高齢者を家族に持つ従業員もおり、何をどのレベルで対策したらいいのかわからず、一番は休業することだと決断した。早めに休んで、稼ぎ時のGWに復活しようと考えたが甘かった。
店舗は5月21日に再開、6月1日に駐車場でテイクアウトを開始。車の中や、桂川畔でかき氷を食べていただく。7月2日からイートインを予約制で再出発させた。
岩井氏 店の営業については、中村さんと真逆の方向で対応したかもしれない。従業員の給料を支払うのが大変で、雇用調整助成金は100%休業を補償するものではない。店を閉めたら収入源を絶たれ、立ち行かなくなる。感染拡大の時期、全従業員を集めて「出勤が怖い人は休業補償するので休んでほしい」と話した。出勤できる社員だけで、当初は全店開けていた。テナント出店からの要請により順々に閉めていった。一番悩んだのが清水の茶わん坂店。商店街はうちを除いて全店閉めるという状況になってしまい、一番最後に閉めた。結局、全8店舗中、5店舗休業。ただし、5月15~20日頃には全店再開した。
現在の感染症対策について
岩井氏 もともと「接客業たるものマスクしてどないすんねん」という考えはある。1月下旬に従業員から「マスクしたらあかんやろか」との声がでた。もちろん、断るような状況ではない。そこから感染症対策を始めた。今は、他のお店と同じように、席数を減らしてソーシャルディスタンス、アルコール消毒液設置、レジにはビニールカーテン、非接触体温計の導入などをしている。
中村氏 対策は岩井さんとほぼ一緒。席を減らし、アルコール消毒も強制的にしてもらうのではなく、物販では順番にご案内、対面スタッフは疲弊するので常に2人にし、6人ほどで順番に回すシフトを組んでいる。
コロナ禍でどう売上を作っていくのか
岩井氏 模索しながらやっている。毎回会議で従業員に「アイデアを出してくれ」といっており、正直、次の一手はわからない。通りがかりの観光客の入店も多いので、表に人が歩いていなければ商売にならない。
毎年6月は三室戸寺あじさい園に全社あげて取り組んでいるが、今年、どれだけ来園者があるか不安だった。6月10日過ぎの夜間拝観報道発表後に公開が始まると、全国観光地でも珍しいほど多くのお客様がいらした。多い日で一日一万人。これは今後の京都観光のヒントになると考えているところだ。
マスコミの取材も受け、三密対策についての質問もあったが、一万人のお客さんに完全なソーシャルディスタンスは無理なこと。幸い、京都に人出が蘇ってきた、と好意的に取り上げていただいた。
観光はほとんど屋外だが、屋外でクラスターが出たという話はたぶんない。いま「来てください」とは言いにくい。しかし、経済、京都では観光を止めるわけにはいかない。京都は元気だ、こんな立派なお土産があると伝えていくことがこの先もっと必要になってくる。観光を元の状態に戻したいということを人一倍思っている。
とはいえ、観光がこんなにも感染症に弱いと、2020年にして初めて知った。他の方向で収益を伸ばすことも模索している。
中村氏 物販ではそれほど落ちていないが、イートインは席数を7割にしているので、最大7割。今までは空いた席からどんどんご案内していたが、時間を区切って予約制となり、消毒し準備してから案内しているので、とても7割にはいかない。その分の穴埋めとして、休業期間中メニューを考え始めたテイクアウトだが、思いどおりにいっていない。うちは桂離宮の前に立地しているが、とくに観光客の多い店ではない。しかし、京都が観光地として認められているのは、地場でがんばっておられる小さなお店の集合体であってこそ。小さい店がそれぞれ高いレベルで仕事をしている、そこに魅力があるから来ていただいている。いいものを作り、やはり京都はすごいね、と言ってもらえる手助けになればと思っている。
この状況の中で怖いと思っていること
岩井氏 やはり一番はお客さんがいないこと。商売人は皆そうだと思う。今、7店舗を見ると、緊急事態宣言のときとそれほど変わらない、お客さんが戻ってきた感じはない。
秋の紅葉のシーズンにこの状況が続くこと、それが一番怖い。最初の頃、スタッフがコロナのことをどう思っているかが見えない時期があり、それも怖かった。ネット販売では(アメトマスクなど)いろんな企画を考えた。母の日には今までにない量の注文が来て、スタッフの力を結集して対応した。会社の中で結束力ができ、それはコロナ禍中で良かったとも思えることだ。
中村氏 商売はお客さんが来てなんぼのもの。3月終わり通常どおり来ていただき、ありがたいと思っていた時に、従業員が「こんな状態のときに、お客さんよう出はるよな」と言ってるのを聞いてしまった。スタッフには、お客さんが来るのはありがたく、その思いは接客の態度にでると徹底して伝えたつもりだし、それを守ってきたスタッフから、そういった言葉が漏れてしまう状況。このことが怖く、これが休業しようと思った大きな要因になった。
休業した日からは毎日怖い。店を回していけるんやろか、秋からの工事のために借り入れもあるし、この状態が続いたらどうなるんやろかと。ただ打開策はあると思っている。前回、今回とこのミーティングに参加してるのも少しでも糸口がつかめたらとの思いからだ。
休憩後、参加者を混じえ話し合った。
ウィズコロナ、展望を持っているか
中村氏 製造の職長とイートインの代表者と私の3人で新商品開発に時間を費やしている。じっくりとやりたい。新商品を試すいい機会にはなると思う。
岩井氏 国民のおそらく半分ぐらいは収入が減っていないので、意外と財布の紐はゆるいと感じている。当たったら見返りは大きいとも言えるが、次から次と手を打つのにも限界があり、本業の飴の製造に力を入れるべきか。従業員が生き生きできる仕事を作るのが社長の努め、会社の方向性を見極めていきたい。
新しい売り先の開発について
中村氏 以前は百貨店に出店していたが、徐々に減らし、去年社長を引き継いだとき、催事も全部撤退した。本店以外での販売はキャッシュを作る上では有効だと思っている。でも、製造のキャパなど考えると生菓子店として今の規模が限界。今の方向でやれるギリギリの計画を考え、あがいているところ。より広くではなく、より深くの方向で乗り越えたいと思っている。
茶店を営業している参加者から
「一年の中で、桜の時期の売上が一番大きい。しかし今年は桜が咲いていても誰も来てくださらない。お正月から用意した素材を廃棄することになってしまった。8月になるとかき氷のお客さんに例年たくさん来ていただいている。もしコロナ感染者が出たらと心配だ。そこをどう考えているか教えてほしい」
中村氏 万が一感染者が出て、クラスターと呼ばれる。それは怖いことだが、感染対策をやっていることをきちんと伝えていれば、風評被害の収束自体は早いのではないか。それより、京都では商品の質や、接客のスキルが落ちることに対し、厳しい意見が強いのではないか。恐れるよりは、何が自店の一番の売りなのかを考え、空いた時間を次の手を打つために使おうと思っている。
岩井氏 中村さんと考えは一緒。やるべきことをやった上ですが、自分のところで感染者が出ることも、覚悟をしないといけない時期だと思う。感染が発生しても対応できる仕組みを作らないといけない。風評被害はあるでしょうが、しっかりしたものを作り、サービスをしていれば、お客さんはわかってくれると思う。コロナ感染者が出ても受容される世間になっていくべきだと思う。
最後に
岩井氏 菓子業界の思いを結集して、京都は元気だと発信していけたらと思う。
中村氏 京都の良さは、個々の小さいお店のいい仕事の集合体だと思うので、その技術はなんとしても継続させていくべきだ。コロナで失われないようにし、進化した京都を見せたいと思っている。