㈱菓業食品新聞社

お菓子の業界紙

「京都のお菓子を京都の人に」

      2020/11/08

ゲストは鈴鹿可奈子氏(㈱聖護院八ッ橋総本店)、河内優太朗氏(㈱ロマンライフ)

 第4回京都菓子屋ZOOMミーティングを9月29日(火)午後3時~4時30分、「京都のお菓子を京都の人に」のテーマで開いた。
 ゲストは、鈴鹿可奈子氏(㈱聖護院八ッ橋総本店専務)、河内優太朗氏(京都北山マールブランシュを運営する㈱ロマンライフ常務)という、土産商品にも強みをもつ2社の次代を担う方にお願いした。

 当日は、弊紙京都支社長の小川が、
「4月、コロナ禍でスーパーなどでは流通菓子は品薄になる一方、京都のメーカーは製造ラインを止める状況になった。それは仕方ないことだったが、京都市民に対する隠れた需要があるのに届いていないのではとも感じた」と話し、ゲストの紹介をした。

「京都のお菓子を京都の人に買っていただく、というテーマを考えたときに、真っ先に浮かんだのがニキニキを立ち上げた鈴鹿氏でした」。

ニキニキについて

鈴鹿氏  立ち上げたのは、ほぼ10年前。八ッ橋が観光客向けのお菓子になっており、京都の人が日常のお菓子にしていない、という気づきからだった。

鈴鹿可奈子氏

 「地元の人が軽くつまんで食べる機会を」と思った。当社本店の店構えも若い方には少しものものしいようで、単価は安いのに敷居が高いと思われている。「八ッ橋といえばおばあちゃんのお菓子」と言われたりした。
 そのイメージを変え、誰でも気軽に入っていただける店構えで、ラインナップも新しくし、「私たちが普通に食べるお菓子」に変えたいと思い、あえて聖護院の名前は出さずに立ち上げた。
 おかげ様でメディアの取材などよい効果が生まれてきた。地元の方が「京都のものを」と言って結婚式に使ってくださったり、少しずつだが浸透してきたと実感している。

「京都の人」に対し意識していること

鈴鹿氏  聖護院八ッ橋総本店の商品は日持ちを意識しないといけない。すると、ジューシーな素材を使えなかったり、凝った造形ができなかったり。また、お土産として祖父の代から「商品をきらすな」と言われており、どうしても大量生産可能なシンプルなものになっていく。
 ニキニキはそれとは逆行するかたちで、日持ちにとらわれない美味しさと造形を重視し、消費期限が短くても売っていこうと。

nikiniki「カレ・ド・カネール」(聖護院八ッ橋総本店FBより)

 生八ッ橋と様々なコンフィなどを自由に組み合わせる「カレ・ド・カネール」では、アイスクリームやカスタードクリームなど生八ッ橋に合うけれども持ち帰りが出来ないものは、店頭でのみ食べていただくようにした。そのように融通をきかせることが、地元の人を意識したことになるのかなと思う。

河内氏 ニキニキについては、ビジュアルにまず驚いた。今まで培ってきた技術を可奈子さんの若い新しい感性でやっていらっしゃるのが印象的。

河内優太朗氏

鈴鹿氏 はじめの頃は自分がデザインを考えていたが、今は社員の皆さんが考えてくれるようになった。はじめは製造部門には女性社員が1名しかいなかったのに、ニキニキブランドを立ち上げてから、デザインを考えるのが好きだから、という動機で入社希望者が出てきたり。ただ、今でも、何個かにひとつは私もデザインを描いている。

現在の状況

鈴鹿氏 母体である聖護院八ッ橋総本店は、そうは言っても土産物需要が主なので、コロナ禍の影響は大きい。5月の自粛期間はそもそも得意先が店を閉められていたし、6月に少し持ち直したかと思ったら第2波がきてしまった。人出としてはこの間の4連休(9月19~22日)は例年より多いくらいだったが、京都駅を使う人が少ない。
 そして、人出の割りにはお土産を買っていく人が少ない。まだ、旅行をすること自体にうしろめたさを覚える方が多く、京都に行ったと知られないように、お土産物の購入を控える方もいらっしゃる印象。人手や日持ちの問題も考えながら生産調整している。

河内氏 鈴鹿さんがおっしゃったのと同じ状況。
 販路のうち、京都駅と観光地はずっと厳しい。デパートは少しずつ戻ってきているが、まだまだ。北山や山科など郊外の直営店は例年通りの状況。

聖護院八ッ橋総本店の鈴鹿且久社長ももっと地元の人を大事にしなければと語っておられた。

鈴鹿氏 本店はコロナ禍でも一日も休まず開けていた。
 近所の方が歩いて来られて、その時閉まっているとがっかりされてしまう。地元の人を大事にしたいという思い。
 観光客の中でも、海外の方が戻ってこられるには時間がかかると思われる。当社は、インバウンドに向きすぎて日本のお客様が離れたことはなかったので、それは良かったと思っている。
 八ッ橋の良さを広めるのはニキニキが担っているが、一方で、そろそろ起爆剤となる商品が必要かもしれない。

10月2日オープンのロマンの森。内覧会に行き、地元の方も意識した施設だと感じた。

河内氏 もともと当社は、日頃忙しい生活をしている方にホッとする時間を提供したいという思いで、喫茶店を始めたことから始まっている。立地する国道1号線という無機質な場所に緑を与えて、皆さんがゆっくりとした時間を過ごせる場所として、ロマンの森を作った。できるだけ、自然のものを採り入れている。

マールブランシュ「ロマンの森」

 工房が見えるのは、5年前の計画スタートのときから考えていたこと。ケーキは、パンなどと違って香りや温度を感じにくいもの。出来たて感を感じて召し上がっていただきたい。

マールブランシュのフリーペーパー「喜びのバトン」より

 洋菓子店を北山本店で始めて以来、『憧れの非日常』をテーマにしてきたが、先程の鈴鹿さんのお話にあったように、繰り返し使っていただきたい、普段からつまんでいただけるお菓子を提供したいという気持ちを表し、『素敵な日常』というテーマにした。カフェをセルフにしたり、価格帯も北山本店からだいぶ下げた。

鈴鹿氏 「憧れの非日常から、素敵な日常」というのは、いいキーワードだと思った。
 昔、特にバブル期を経験した世代には、憧れの非日常が求められていたと思う。今は高級なレストランでも設えなどはカジュアルな雰囲気が多く、また特別な日を持つよりも日常を心地よく過ごすことを大切にする人が多い。そんな世の中で「素敵な日常」をテーマにされたのは、素晴らしい。
 ロマンの森の紹介を見ると、ワクワクしてくる。絵本のスペースもあり、子供連れでも安心して行けることも魅力。

ロマンの森、絵本のスペース

 その一方、北山店を「憧れの非日常」として残されているのも英断だと思う。今日、実は北山店に伺ったが、マダムたちがケーキを楽しそうに召し上がっていた。昔ながらのマールブランシュさんの高級感を求めるお客様の場もきちんと提供されるのが素晴らしいと思う。私もその雰囲気にうっとりし、夕食後のデザートにとケーキを買ってきました。

 休憩後、ニキニキのアマビエのお菓子などの紹介。これは鈴鹿氏がデザインを考えたという。いまでも一番売れており、ハロウィンバージョンを出す予定。

nikiniki「アマビエ」

参加者からの質問をいただいた。

「新商品を考えるとき、マーケティングから作るのか、これを作りたいという思いを大事にするのでしょうか?」

鈴鹿氏 「作りたい」に重きを置きたい。ニキニキの場合は、私がほしい、友達にあげてみたいというところから始めている。
 聖護院八ッ橋総本店でも何をしたいかがまずあり、また今までのお客様がどう思うかを考え、会社全体の方向性を大事にし作っている。

河内氏 両方あるが、やはりこんなものを作りたいを軸に置いている。
 その際大事にしているのは2点あり、当社を好きなお客様に、新商品を愛してもらえるのか。もう一点は、他社の商品と違う点をはっきり持つこと。

「当店は、観光の方が多いのだが、地元の方には、いつ行っても同じだと思われてしまっている。『名物菓子』以外に、地元の方に来ていただける商品を考えたい」

鈴鹿氏 八ッ橋も同じところがある。なので、ニキニキでは一カ月ごとに新しい商品を出し、来るたびに楽しめるようにと考えている。一緒に頑張っていきたいと思う。

最後に

鈴鹿氏 皆さんのお顔を見ることが久しぶりで、こちらも勇気をもらった。地元を向くと同時に、ネット販売も重視していこうと社内で話している。他府県からこういう状況下でも欲しいと思ったくださる方はありがたい。今は逆境だが、新しいステップになればと思っている。

河内氏 打ち合わせで、聖護院さんのような歴史ある会社が、戦時中のもっと危機の時、どうしていたのか伺ったら、パンですか?

鈴鹿氏 八ッ橋を作れない状況になって、本業も大切だが会社の存続と従業員の生活が大事だと、配給のパンを作っていたと聞いている。

河内氏 その話に勇気をもらった。
 我々は社歴が浅いので、今回の未曾有の危機にドタバタしたし、明日、一カ月先の不安に苛まれた。歴史の長い会社には、危機を乗り越えた歴史があり、100年企業を目指すには、ここでどれだけ努力できるかだと思った。
 また、菓子屋はよい商売だと感じる機会も多かった。コロナ禍でも、一人もお客様がいなかった日はなく、開いてて嬉しいと言われた。菓子は必需品ではないとされるが、実際には必要とされる方がいる。お客様に報いるため様々なチャレンジをしていきたい。