㈱菓業食品新聞社

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ZENBI 開館記念特別展「黒田辰秋と鍵善良房」

   

 京菓子店の鍵善良房(今西善也店主)が運営する ZENBI( KAGIZEN ART MUSEUM )では、6月27日(日)まで開館記念特別展「黒田辰秋と鍵善良房 結ばれた美への約束」を開催している。

 ZENBIは今年1月8日に、東山区祇園町にある同店のカフェ・ZEN CAFE の向かいにオープンした。館長は今西店主が務める。
 祇園の町並みにも合う落ち着いた2階建てで3室の展示室をもつ。また、別棟にミュージアムショップを併設している。

ZENBI

 今回とりあげた黒田辰秋は、1904年生まれの木漆工芸作家。
 生家は祇園で塗師屋を営んでいたが、漆器製作の分業体制に疑問をもち、素地作りから、塗・螺鈿などの加飾までの一貫制作を志し、作家性の高い作品を残す。一方、柳宗悦の民藝運動にも触れ、芸術と工芸の両面性をもつ作品世界を作っていった。1970年には人間国宝に認定された。

飾棚(鍵善良房本店内)

 同店12代の今西善造氏は、昭和初めより黒田と親交をもち、飾棚ほか数々の調度の製作を依頼した。今回展示された約40品は、すべて同店所蔵のものだという。
 ポスターに使用された「赤漆流稜文飾手筐」は、螺旋状に彫られた黒田独自の大胆な意匠が特徴的で、美しさとエネルギーを感じる面目躍如の作品である。

「赤漆流稜文飾手筐」


くずきり用の器


「くづきり」

 2階奥の部屋にはとくに店にまつわる品を展示。
 中でも、美しい螺鈿が施された同店名物くずきり用の器は注目だ。上蓋に「鍵」「善」「良」「房」「鍵紋」、それぞれが施された5組のセットで、蓋を開けると、朱塗で蜜を入れる器と葛きりが入る器が重ねてある。
 また、本店入口に掲げられてきた「くづきり」の書は陶工・河井寬次郎のもので、黒田制作の額縁に入っており、作家が集いサロンのようであった昭和初期の同店の雰囲気を伝える。

 今西店主は今回の展示の経緯について
「2017年に京都駅ビルで黒田辰秋展が行われたが、とても評判で、蔵に眠っていた作品をアーカイブする場所が必要だと思った。また祇園町が変わりゆく中で、当店が育った祇園の培ってきた文化を残したい気持ちもあった」と話す。

 黒田の作品の魅力について「造形の美しさがある。一歩間違えば、派手にもなるが、バランスが良い。そして、大胆な今見ても全く古くないデザイン性。若い人や外国の方の心も打つのではないか。趣向に富んだくずきりの器はお客さまを楽しませようとしており、それは菓子屋とも共通する」と話す。

 今後について「年一回は黒田辰秋を紹介する展覧会をしたい。次の展示は、当店の紙袋を描いていただいた画家の山口晃展、また、菓子木型の展示なども考えている。当店や祇園町に関わる物語性のある展示をしていきたい」と語る。

 「展覧会にはコロナ禍の中でもお客様に来ていただいている。美術館はモダンでありながら町並を壊さないものをと建築家と考えていった。お寺のように外の光や風が入り、ゆったりできる場所になればと思う」と話す。

今西店主

 美しく充実した展覧会のカタログも制作された。黒田辰秋の評伝や作品論のほか、同店との関わりについても頁を割いた。
 本店に今も残る大きな飾棚や小上がりの棚など、黒田作品が店の中でどのように活かされてきたかがわかる。